解雇・退職勧奨

1 解雇は慎重に考えるべきものであること

度重なる就業規則違反をおこなう従業員がいた場合、会社としても、その対応に非常に苦慮してしまうのではないでしょうか。

何度指導・注意をしても全く改善が見られず、むしろその従業員一人のせいで周囲の士気が下がってしまう状況が続いてしまうと、会社全体の利益損失にも繋がりかねません。

そこで、会社としてもやむを得ず、辞めてもらう方向で交渉をすすめなければいけなくなった場合、可能な限り円満なかたちで雇用契約の終了を目指したい、と考える方がほとんどではないかと思います。

しかし、もし会社が誤った判断をしてしまった場合、「同意はなかったのに、無理やり退職させられた」として、「不当解雇」を理由に訴えられてしまう危険性もはらんでいます。

簡単には解雇できないということを知らず、安易に解雇の手続きを進めてしまった場合、被解雇者との間で紛争を招き、多大な労力を強いられることにもなりかねません。

したがって、解雇したい従業員がいる場合は、その解雇事由を慎重に検討するとともに、慎重かつ適切な手続きを行わなければなりません。

解雇する際には、その客観的・合理的な理由が存在したことを証明できるものを残しておくべきです。

このような点に留意せずに解雇すると、後々正当な解雇であったことが証明されず、解雇が認められなくなる可能性がありますので注意が必要です。

過去には、平成二年にY社へ正社員として採用された従業員Xが、特定の業務分野のない部署での勤務を命じられた後に、労働能率が劣り、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、解雇を無効として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てた事件がありました。

この判決では、会社主張の解雇理由は具体的事実の裏付けがないとして、請求が一部認容され、本件解雇は権利の濫用に該当するため無効であるとの判断がなされました。

(平成11年(ヨ)第24055号/セガ・エンタープライゼス事件)

このように、「客観的に合理的な解雇理由」の判断というのは極めて難しく、解雇の相当性が充分に満たされていない場合においては、争いに発展してしまう可能性が非常に高いのです。したがって、雇用契約を円満に終了するためには、会社側が法律を適正に理解していることが大前提となるのです。

2 解雇の種類

① 普通解雇

労働契約法第16条は、使用者は、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、労働者を解雇することができないとされ、いわゆる不当解雇として無効になってしまいます。では、どのような場合に認められるのか、類型ごとに説明します。

⑴ 傷病・健康状態の悪化による労働能力の低下

「身体・精神の障害により業務に耐えられないとき」に普通解雇ができきると就業規則で規定することが多いですが、傷病などの程度が非常に重く、労働を行うことが到底できない程度に至っていることが必要とされています。したがって、簡単には解雇できません。

多くの企業では、この解雇の前提として休職制度を採用しています。この休職を経た上での解雇又は自然退職を検討し、休職期間が満了しても私傷病が「治癒」しない場合に初めて解雇が可能になります。

⑵ 能力不足・成績不良・適格性の欠如

「労働能率が劣り、向上の見込みがないこと」等を理由に普通解雇ができる就業規則で規定されることが少なくありません。この場合についても、簡単に解雇が認められるわけではありません。

能力不足・成績不良・適格性欠如の程度が業務に支障がでることや、相当の指導や注意によって改善を促しても改善しなかったなどがなければ、解雇が有効とならず、会社側が負けるケースが少なくありません。

さらには、紛争になった場合、証拠がないために、従業員の能力不足や指導等を証明できず、解雇が無効と判断されることもあります。能力不足等がわかる資料を残したり、指導書など書面を作って客観的資料として残す形にしたりすることが必要です。

⑶ 職務懈怠・勤怠不良

無断欠勤、遅刻・早退過多、勤務態度や状況の不良、協調性が欠けること等が理由となる解雇があります。これも、無断欠勤、遅刻・早退過多、勤務態度や状況の不良、協調性が欠けることについての客観的資料が不可欠です。

さらに、会社が相当の指導・注意などによって改善を促している資料やそれでも改善しなかった資料があることも重要です。

⑷ 職場規律違反・不正行為・業務命令違反

いわば労働者の非違行為のことであり、例えば、他の従業員への暴行や不正経理などのことです。懲戒解雇の理由とも重なる理由ですから、重大な非違行為があった場合は、それだけで解雇理由に直結することもあり得ます。

ただし、解雇が可能になるには、その事情についての慎重な調査と相応の資料が必要不可欠です。

② 整理解雇における不当解雇

整理解雇は、次の4要件(または4要素)を満たす必要があるといわれます。いずれの要件についても相応の証拠資料が必要ですから、解雇が可能になる場面は相当に限られます。

⑴ 人員削減の必要性

余剰人員を削る必要があるかどうかです。近年の裁判例では、人員削減しなければ企業が倒産する、というところまで切迫した必要性は求めていません。

⑵ 会社が解雇回避努力義務を行ったかどうか

雇用は従業員の生活に直結するものですから、解雇は最後の手段です。会社は、解雇を回避する努力を行う必要があります。

たとえば、解雇をする前に、新規採用の停止、役員報酬カット、昇給停止、賞与の減額・停止、時間外労働の削減、非正規労働者の雇止め、一時帰休、希望退職者募集、配転・出向等の人件費削減措置をとる必要があります。

⑶ 解雇される人物を選んだことに相当性があるか(被解雇者選定の妥当性)

恣意的に選ぶことは許されません。勤務成績を考慮することや、解雇による打撃が少ない人物を選ぶ等、合理的な基準により解雇される人物を選定したといえることが重要です。

⑷ 労働者・労働組合への説明・協議を十分におこなったか(手続の妥当性)

会社としては、上(1)から(3)の事情はもちろん、整理方針や手続・規模や解雇条件等さまざまなことを労働者に十分に説明する必要があります。

③ 懲戒解雇における不当解雇

懲戒解雇の有効性は、普通解雇に比べ、非常に厳しく判断させる傾向があります。

解雇が可能となるためには、就業規則の懲戒解雇事由に該当するか、該当するとしても、その処分が重すぎないかを慎重に検討する必要があります。また、従業員の言い分をしっかりと聴取する等懲戒解雇に至る手続が適正であるかなど、クリアしなければならない点が多数あります。

従業員の懲戒解雇を検討する場合は必ず弁護士に相談することをお勧めします。

3 退職勧奨

このように、解雇というのは、有効と判断されるには、非常にハードルが高く、仮に有効と判断されるような解雇であっても、従業員と紛争になれば、多くの労力や時間が割かれることは少なくありません。

そのため、解雇ではなく、退職勧奨を行い、従業員に納得してもらって退職したもらうことをおすすめいたします。

退職勧奨は、会社側が従業員に対して退職するように促すことによって、双方の合意をもって従業員が自主退職するという手続きであるため、後々紛争になるリスクを抑えることが期待できるものです。

「解雇」というのは極めて難しい手続きですから、あくまでも会社側の最終手段であるという認識をもって対応しなければいけません。

したがって、双方の合意での退職を実現するためにも、まずは退職勧奨で円満な解決を目指すことが重要なのです。

また、度が過ぎた退職勧奨をしてしまうと、それも不当解雇だとして訴えられてしまうこともありますから、丁寧に交渉をすすめていきましょう。

(1) 退職勧奨の理由、退職の時期

まず初めに、会社側がなぜ退職勧奨をすることになったのか、また具体的な退職の時期について示します。

なお、退職勧奨の理由が本人の職務怠慢や著しい能力不足が原因であった場合、実は本人にはそのような自覚が全くなく、むしろ他より出来ていると認識していることが非常に多いです。

そのため、本人のなかで「なぜちゃんとやっている自分が退職しなくてはいけないのか」という怒りの感情が生まれてしまいますので、交渉が非常に難航してしまうのです。

したがって、会社側の認識と本人の認識のミスマッチの差を埋めるために、例えば、勤務状況や勤務査定などの相対的な評価が見える資料を提示するなどして、丁寧に説明していきましょう。

(2) 雇用保険の離職理由の説明(会社都合か自己都合か)

退職勧奨の場合、退職理由は通常「会社都合扱い」となります。したがって、会社都合扱いの場合は、失業保険の基本手当の受給期間に3ヶ月という期限が生じないため、自己都合退職よりも優遇されます。

しかし、会社によっては「自己都合扱いにしたい」というケースもあるかもしれませんが、その場合は、より交渉が難しくなってしまう可能性が高いということを認識しておきましょう。

(3) 退職金の説明

就業規則に退職の支払いが定められている場合、どのくらい支払われるのかについても、交渉の場で丁寧に説明しましょう。

(4) 退職届・合意書の締結  

双方の間で退職への合意ができたら、退職届を作成し、それに署名をしてもらい、交渉は終了となります。

なお、退職勧奨の場合は、守秘義務や、競合他社への情報流出などを防ぐことも考えて、念の為「合意書」も合わせて作成しておくことが望ましいでしょう。

4 解雇の判断をする前に、弁護士に相談を

しかし、退職勧奨を拒否されてしまうケースというのも勿論ありますので、その場合は最終的に解雇を検討することになります。

ただし、解雇というのは、従業員の同意を得ることなく雇用契約が終了する手続きです。会社側が一方的に契約解除をするため、適正な手順を踏まないと、「不当解雇」として紛争に発展する可能性がありますので、法律の知識を正しく踏まえたうえで行わなければいけません。

また会社側は、解雇理由に関する規定を就業規則内に必ず記載する義務がありますので、その規則に則った上で解雇を判断しなければいけません。しかし、解雇の理由というのは様々ですので、会社が独自の判断で解雇するというのは、非常にリスクの高いものであると言わざるを得ません。

したがって、すぐに解雇を判断するのではなく、まずは弁護士に相談をした上で、法律のプロセスに則った正しい手順ですすめていく事をおすすめいたします。

相談を受けた事案の場合において、どこが争点となりうるか、また会社側の就業規則に問題はないかなど、法的観点からアプローチして問題解決を図りますので、よりベストなかたちでの退職合意を実現できるのです。

5 まとめ

会社としては、出来ることなら自らの意思で問題社員に辞めてもらえたら一番良いのですが、現実はなかなかそのようにはいきません。

大抵は、ほかの優秀な人材が諦めて退職をする、といったケースのほうが残念ながら多いのではないでしょうか。

周囲の働く意欲を下げる人というのは、大抵そのことに気がついていません。本人にその自覚がない状態だからこそ、「辞めてほしい」という交渉をするというのは、会社側としても非常に難しい対応を迫られるのです。

しかし、会社の利益を守るためには、その問題を放置するのではなく、正しい方法で解決しなければいけないという意識をもつことが大切です。そのためにも、まずは法の専門家である弁護士にご相談してみることをおすすめいたします。

また、顧問弁護士を設置しておくなど、いざ社内で問題が起きた際、円滑に解決できる環境を事前にきちんと整備しておくことも大切です。

アポロ法律事務所では、労働者側の労働問題をはじめとして、このような雇用主側の労働問題のご相談も数多く承っております。ぜひ一度ご相談にいらしてください。

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