このページの目次
未払賃料の回収の手続きの流れ
賃貸住宅の管理の中で、特に賃貸住宅のオーナーや管理会社を悩ませるのが、家賃を滞納する賃借人がいることだと思います。家賃が滞納されたまま、放置してしまいますと、雪だるま式に滞納額が増えてしまい、ますます回収が難しくなり、問題が拡大します。
賃借人に対して、家賃の支払いを促すだけでは、膨れ上がった滞納家賃を回収することは困難です。そこで、賃借人が未払賃料、滞納家賃の回収をするための手続について、ご紹介いたします。
1 敷金や保証金を未払賃料に充当する
まず、できることは、入居時に敷金や保証金を預かっている場合、敷金や保証金を滞納家賃に充当することです。さらに、保証会社と契約している場合は、契約内容にもよりますが、保証会社が保証してくれる場合もあります。
2 交渉
敷金や保証会社からの回収ができない場合は、賃借人や連帯保証人に滞納している家賃を支払ってもらう必要があります。まずは、滞納している家賃を払ってもらえるよう賃借人と連帯保証人がいる場合は連帯保証人に対して、滞納家賃を支払うよう書面にて請求します。
家賃滞納があった場合、できる限り早めに督促状を送りましょう。滞納家賃が溜まれば溜まるほど、支払いをするのは困難になります。賃借人は、3か月、4か月、5か月と家賃が溜まれば、支払いするのが困難な額になっていくため、支払いのための金策に走ることもあきらめるようになりがちです。
頻繁に家賃を滞納していたり、家賃が遅れがちであったりするのではなく、単に支払い忘れであると思われる場合は、丁寧な文書で督促しても問題ありません。
しかし、滞納が常習化している賃借人や連絡が取れない賃借人に対しては、「●月●日までに支払いがなければ法的手段を取らざるを得ず、その場合、「遅延損害金」や「弁護士費用」などもあわせて請求する」など、家賃滞納を放置していることに危機感を持ってもらうような内容の督促状にすることをお勧めします。
督促状のポイント
督促状の内容
督促状には、①請求額、②支払期限、③振込先、④期限までに支払わなければ、法的措置をとることをしっかり明示しましょう。
連帯保証人にも送付すること
連帯保証人がいる場合は、必ず、連帯保証人にも督促状を送りましょう。
連帯保証人にも早期に督促を入れることによって、家賃滞納が発生していることを連帯保証人にも知らせ、滞納額が膨らまないうちに連帯保証人に対応させることが重要です。
滞納家賃の状況を踏まえて督促状を複数回送付する
督促状を送っても、期限までに家賃の支払いがない場合、再度、督促状を送ることを検討しましょう。
1回督促を受けただけでは、「大したことはない」などと思ってしまう賃借人でも、複数回の督促を受ければ「何とかしないといけない」と思うことも少なくありません。そのため、滞納家賃の段階に応じて、督促状を送付していくことがポイントになります。
もっとも、いたずらに督促状を送り続ければいいわけではありません。督促状を送る期限や回数を区切り、ここまでして家賃の支払いがないなら次の手続きにいくなど決めておくことが大切です。
複数回の督促状でも支払いがない場合、賃貸人や管理会社の名前で送っても、相手にプレッシャーをかける効果が弱いので、弁護士に依頼して弁護士の名前で送ることがおすすめです。
3 裁判による回収
督促状を送付しても、滞納家賃が支払われなければ、裁判手続を利用することになります。
家賃滞納の裁判で利用できる裁判制度としては、「支払督促」、「少額訴訟」、「通常訴訟」の3つがあります。
この3つの制度を、手続に必要な労力が少ない順に並べると「支払督促」→「少額訴訟」→「通常訴訟」の順となりますが、それぞれにメリットとデメリットがありますので、状況に応じた適切な裁判制度を選択することが重要です。
以下で順番に見ていきましょう。
① 支払督促
「支払督促」とは、裁判所から文書で支払いの督促をしてもらう制度です。支払督促の手続により、仮執行宣言付支払督促を獲得できます。
仮執行宣言付支払督促は、いわゆる債務名義の1つであり、相手の財産の差押などの強制執行をすることができるようになりま支払督促を受けた側は、支払いに異議がある場合は、「異議」を申し出る手続きをすることができ、その場合は、支払督促が通常の裁判に移行することになっています。
「異議」の申し出がなければ、そのまま仮執行宣言付支払督促を獲得できるのです。
賃借人側から異議が出なければ裁判所への出頭が必要はなく、賃借人側から異議が出なければ1か月半程度の比較的短期間で終わります。
② 少額訴訟
「少額訴訟」とは、60万円以下の請求について1回で裁判を終結させる手続きです。少額訴訟についても、訴えられた側は「少額訴訟ではなく通常訴訟で審理すること」を裁判所にもとめることができ、その場合は、少額訴訟の手続きは通常訴訟に移行します。
なお、1つの訴訟で、賃貸人と連帯保証人双方に対して、同時に請求することができます。
通常訴訟は、訴訟が1回で終わらず、期間が長くなりがちです。少額訴訟が1回で終結することは、時間や労力について負担が少なくすむというのがメリットになります。
一方で、1回で結論を出すため、準備不足により敗訴してしまう可能性もあるということになります。1回の裁判期日で終わることを想定して、完全な準備を事前にしておくことが必要になります。
③ 通常訴訟
通常訴訟は、もっとも一般的な裁判手続きです。被告が原告の言い分を認めれば原告勝利の判決、またが被告の認諾調書作成で訴訟は終わりますが、事案に争いがあれば、期日を重ねて原告と被告双方の言い分を準備書面により出し合い、裁判所が争点を整理して絞ります。1日で判決が出る少額訴訟とは異なり、争点ややりとりが多くなれば多いほど判決までの時間を要します。
ただ、支払督促や少額訴訟と異なり、賃料等金銭の支払いだけでなく、同時に滞納者に立ち退きを求めることも可能です。1つの訴訟で、賃貸人と連帯保証人双方に対して、同時に請求することができます。
4 強制執行を行う
上記3により、裁判で賃貸人に対して滞納家賃を払うよう命じられるようになっても(これを専門用語では、債務名義を取るといいます)、賃貸人が滞納した家賃を支払わないことがあります。
その場合に、行うことができるのは、強制執行です。強制執行手続は、賃借人が所有している財産があれば、その財産を強制的に取り上げてこれを未払賃料、滞納家賃に充てることができるのです。
しかし、実際には、賃借人や連帯保証人に財産があるのか不明なことが多く、たとえ会っても流動的であるため、いざ強制執行をしようとしたときには、財産がなくなっていた、隠されてしまったなどということも少なくありません。
そのため、裁判を行う前に、賃借人や連帯保証人に財産があるのか、強制執行ができるようになる時点までに存在するもので、未払賃料、滞納家賃を回収することができるのかについて、財産調査を行うことが大切になります。
まとめ
いかがでしょうか。賃借人に支払えるだけの経済力やきちんと払おうという意思がない場合、未払賃料、滞納家賃を回収することは困難になることが多いです。
賃借人に家賃滞納された場合、最初は、管理会社や賃貸人において対応されることが多いと思います。しかし、管理会社や賃貸人において督促を行っても、前に進まないときは、放置しないで、できる限り早く弁護士にご相談いただくことが重要になります。
アポロ法律事務所は、未払賃金、滞納家賃を含めた不動産トラブルについて多くの実績を有しております。お気軽にご相談ください。