「仕事中にこっそり漫画を読んだり、長時間ネットサーフィンをしている社員がいる」
「毎日遅刻をしてきたり、頻繁に仮病で休む社員がいる」
「指示された仕事を自分でこなさないで、他の人に無理やりおしつけている」
昨今、このように就業規則を平気で違反してしまう「モンスター社員」の話題を、テレビやSNS等で多く耳にする機会が増えました。
また、モンスター社員を題材としたドラマも放映されるなど、その存在がより我々に身近なものになってきていることを実感している方は多いかもしれません。
会社としても、出来ることなら問題社員に自らの意思で辞めてもらえたら一番良いのですが、そのような社員が自主的に退職をするということは極めて珍しいですから、大抵は、ほかの優秀な人材が諦めて退職をする、というケースのほうが残念ながら多いのではないでしょうか。
このように、問題社員を放置しておくことによって会社全体の士気も下がり、優秀な人材の流出などによって、経営にも大きな影響を及ぼす可能性がありますから、会社側としても早期に問題解決することが望ましいでしょう。
しかし、「解雇」を行いたいと考えていても、もし会社が誤った判断で、誤った手続きをしてしまった場合においては、逆に訴えられてしまう危険性もはらんでいます。
したがって、法律を適正に理解した上で、正しい手順を踏む必要がありますので、まずは法の専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。
ここでは、問題社員の対応についてご説明していきます。
このページの目次
1 問題社員の特徴
社員による問題行為というのは様々ですが、特に多いとされるものとして、以下のものが挙げられます。
- 無断欠勤・仮病・遅刻が異常に多い
- 離席時間が異常に多い
- 周囲の人間の職務を邪魔する(ハラスメント行為等)
- 自分がやるべき仕事を周囲に押しつける
- 著しく能力が低い
- 職務遂行の義務を果たさず、労働者の権利のみを過剰に主張する
- 協調性の欠如
会社としても、せっかく労力とお金をかけて雇ったわけですから、出来れば簡単に辞めて欲しくないという気持ちもあると思います。
しかし、ありとあらゆる手段をとった上でもなお、残念ながら改善の余地が見られない問題社員というのも少なからず存在します。その場合はやむを得ず、辞めてもらう方向で対策をとる必要が出てきてしまうでしょう。
2 解雇までの手順
では実際に、どのような方法で退職を促すべきなのかについてご説明していきます。
ここで大切なのは、会社側がいきなり退職を促すのではなく、必ず段階を踏んで手続きをおこなう必要があるということです。
労働契約法第16条において、「使用者は、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、労働者を解雇することができない」と定められていますので、明確な根拠がないかぎりは従業員を解雇することが出来ません。
したがって、以下のような段階を踏んだうえで、最終手段として解雇を検討するという認識ですすめていきましょう。
- 問題社員に対して、根気強く注意・指導を行う
- 人事での面談を行い、改善すべき点を直接伝える
- それでも改善が見られない場合には、懲戒処分を行う
- 懲戒処分でも改善が見られない場合には、退職勧奨を行う
- 退職勧奨に応じない場合は、解雇手続きを検討する
このような手順を踏むことによって、最終的に解雇処分となった際に、もしその問題社員との間でトラブルが生じたとしても、
「会社側としてもこのような手立てを講じたが、改善の兆しが見えなかったため解雇するという判断に至った」という明確な証拠にもなりますから、必ず書面等の形で残した上で、対応をとるようにしましょう。
3 解雇の前には懲戒処分が必要
根気強く注意や指導を行い、また人事面談も行ったにもかかわらず、それでも改善が見られないという場合においては、懲戒処分を行うことを検討しましょう。
ただし、懲戒処分には労働契約法第15条により厳格な規定がされていますので、問題社員の行為が以下の条文に該当するケースであるかについて、正しく判断する必要があります。
(労働契約法第15条)
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
また、もしこの懲戒処分という段階を踏まずに解雇してしまった場合、不当解雇であるとして損害賠償請求をされる可能性が高くなってしまいます。
したがって、解雇を視野に入れている場合においても、必ずこの手順ですすめていくことが大切です。
4 解雇には2種類ある
懲戒処分でも改善がみられなかった場合は、いよいよ、解雇に向けて手続きをすすめていきます。
しかし、ここでも注意が必要なことがあります。
それは、「いきなり解雇を告げるのではなく、解雇の前には退職勧奨を行うことで紛争リスクをなるべく最小限におさえる」という事です。
第2項でもご説明しましたが、労働契約法第16条において規定されているように、解雇手続きというのは複雑で、非常に難しいものです。
したがって、会社個人の判断で行うのではなく、まずは法を熟知した弁護士に相談することを強くおすすめいたします。
(1) 退職勧奨
退職をすすめる手続き。会社側が従業員に対して退職するように促すことによって、双方の合意をもって従業員が自主退職する手続きになるため、後々紛争になるリスクを抑えることが期待できる。
(2) 解雇(普通解雇、懲戒解雇)
従業員の同意を得ることなく雇用契約が終了する手続き。会社側が一方的に契約解除をするため、適正な手順を踏まないと「不当解雇」として紛争に発展する可能性があるため、法律の知識を正しく踏まえた上で慎重に対応する必要がある。
5 問題社員の対応については弁護士に相談すべき
問題社員のタイプというのはさまざまですので、その状況に見合った対応をとることが大切です。
もしかしたら、何か理由があってそのような問題行動を繰り返しているということも考えられますので、会社側としてもまずは適切な指導や注意をおこなうことで、改善を目指す必要があるのです。
しかし、
- 注意や指導をする際に必要以上に高圧的になってしまい、逆にパワハラだと訴えられた
- 度が過ぎた退職勧奨をしてしまい、不当解雇だとして訴えられた
- 問題行為を記録しておらず、後々訴訟になった際に証明するものがなかった
といったように、対応を誤ってしまうと、かえって会社側が大きな損害を被ってしまう可能性がありますから、法律の要点を理解したうえで慎重にすすめていくことが大切なのです。
したがって、まずは弁護士に相談をした上で、法律に則ったアドバイスを受けながら、正しい手順ですすめていく事をおすすめいたします。
6 まとめ
問題社員が一人いるだけでも、他の社員の働く意欲というものは著しく低下してしまいます。
確かに、解雇という手続きは非常に難しいものではありますが、不当解雇を恐れて放置したままでは、状況は益々悪化を辿ってしまうでしょう。
一生懸命働く他の社員を守るためにも、正しい手順を踏んで状況の改善を目指すことが大切です。そのためにも、まずは法の専門家である弁護士にご相談してみることをおすすめいたします。
また、顧問弁護士を設置しておくなど、いざ社内で問題が起きた際、円滑に解決できる環境を事前にきちんと整備しておくことも大切です。
アポロ法律事務所では、労働者側の労働問題をはじめとして、このような雇用主側の労働問題のご相談も数多く承っております。ぜひ一度ご相談にいらしてください。