パワハラ・セクハラで訴えられた(企業側)

近年、「○○ハラスメント」という言葉が広く使用されるようになりましたが、その中でも、特に多く耳にするものと言えば、「パワハラ」「セクハラ」ではないでしょうか。

当事務所でも、このようなご相談を従業員の方、雇用主の方を問わず多くいただいております。

では、もし社員から突然このような相談を受けたとしたら、会社としてどのように対処すべきなのでしょうか。

ここでは、その手順についてご説明していきます。

1 パワーハラスメントとは?

耳馴染みがある言葉と言っても、具体的にその定義まではご存知ないという方も多いかもしれません。

パワハラとは、次の3つの基準すべてを満たすものをいいます。

  1. その職場における地位・優越的な関係を利用している
  2. 業務上に必要相当なレベルを超えたもの
  3. 労働者の精神的苦痛を与え、また職場環境が害されるもの

令和元年には、ある大手企業の男性新入社員が、当時の教育主任から「自殺しろと言われた」と書いたメモを残し、その翌日に自ら命を絶ってしまうという非常に痛ましい事件がありました。

その後、この企業は教育主任のパワハラ発言が自殺の原因となったことを認め、再発防止策を講じることを約束に、遺族との和解が成立しました。

令和4年4月からは「パワーハラスメント防止法」が全事業主に義務化されるなど、国をあげてパワハラへの対策を講じる動きを見せていることからも、このパワハラという問題の深刻さを伺い知ることができます。

2 セクシュアルハラスメントとは?

セクハラの定義について、男女雇用機会均等法11条1項では、以下のように定めています。

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」

具体的には、次の3つの要件を満たしているものをいいます。

① 職場で行われていること

職場とは、事業主が雇用する労働者が、業務を遂行する場所。なお、労働者が通常就業している場所以外であっても、「取引先事務所」「顧客の自宅」「出張先」なども職場の定義に含まれる。

② 労働者の意に反していること

労働者とは、事業主が雇用するすべての従業員のこと。したがって、正規労働者のみならず、パートタイム労働者や契約社員などの非正規労働者もこれに含まれる。

③ 性的な言動であること

性的な内容の発言および性的な行動を指す。事業主・上司・同僚に限らず、取引先・顧客・患者・学校における生徒なども、セクハラの行為者になり得る。

また、セクハラ行為は、男性から女性に行われるものだけではなく、女性から女性に、女性から男性に、男性から男性に対して行われるものもすべて対象となる。

3 ハラスメント発生時における、会社の対応策とは?

では、もし従業員から「パワハラ・セクハラを受けた」という相談を受けた場合、会社としてどのような対策を講じるべきなのでしょうか。

もしここで問題を放置してしまった場合、調査義務違反であるとして会社が損害賠償請求をされる可能性もありますから、事業主として適正な対処をする必要があります。

したがって、通常は以下の手順を踏んで、問題解決を図っていきます。

(1) ヒアリング(相談)

まずは被害を受けたとされる従業員から、事実関係の聞き取りを行います。いつ、どこで、どのようなハラスメントが発生したのか、その内容や経緯についての詳細を確認します。

また、調査の際には特に以下の点に注意し、慎重にヒアリングを行っていきましょう。

  • 従業員のプライバシーの保護を約束すること
  • 調査員の自己紹介をして、話しやすい状況をつくること
  • 高圧的な態度や、否定的な態度で聞き取りを行わないこと
  • 言った、言わないの論争を避けるため、可能な限り複数名で行い、記録を残すこと
  • セクハラの相談の場合は、相談者と同性の調査委員も配置すること
  • 長時間の聞き取りは行わないこと

(2) 相談者以外からの聞き取り調査

また、調査をする上では、聞き取りをする相手の順番にも注意が必要です。

相談者からの聞き取りを終えたら、行為者に対しても事実確認の聞き取り調査をしても差し支えないか確認をとったうえで、行為者への聞き取りを開始しましょう。

また、むやみやたらに情報が拡散されることのないよう、聴取対象の第三者の人数は極力最小限におさえることも大切です。

そして、聞き取りをした内容については、対象者・日付・時間・具体的な聞き取り内容等を記録として必ず残しておきましょう。

調査の順番

  1. 相談者からのヒアリング
  2. 相談者に了承を得た上で、行為者からのヒアリング
  3. 第三者(上司、同僚等)からのヒアリング

(3) 事実の判定

対象者からの聞き取りが一通り終了した段階で、本当にハラスメントがあったのか、事実判定を行います。

もし事実であった場合は、相談者と行為者の人事配置転換、謝罪の場を設ける、また就業規則に則った行為者への処分等を行い、相談者へ配慮した職場環境の改善等の措置を講じます。また、重大なハラスメント行為があったと判定された場合は、当事者双方での示談交渉に移行するケースもあります。

しかし、判定の結果、もし事実が確認できなかった場合の対応についても、注意が必要です。

この時、相談者に対して「認められなかった」という結果をただ伝えるだけでは、相談者の感情を逆撫でしてしまうことになります。

したがって、「このようにきちんと調査をしたが、事実として判定することができなかった」という旨を、報告書を提示して丁寧に説明したうえで、今後相談者としてどのような環境を希望するのかについて、きちんと確認するようにしましょう。

また、たとえ事実確認ができなかったとしても、同じような問題の再発を防ぐためにも、行為者に対して何らかの措置を講じる必要があるケースもあります。

なぜこのような疑惑が生じてしまったのか、また、今後このような疑惑が再発しないように、従業員全員を対象としたハラスメントの研修や勉強会を行うなど、未然に防ぐための努力が必要です。

4 ハラスメントの問題は弁護士に相談することが望ましい

第3項の冒頭でもご説明したように、もし、従業員同士でのハラスメントの問題を放置してしまった場合、結果として会社側が様々なリスクを負うことになります。

  • 損害賠償請求をうけてしまう可能性がある
  • 社内でのハラスメントが横行している場合、優秀な従業員が休職・退職してしまう
  • ハラスメントの評判が広まることによって、優秀な人材が集まらず経営の悪化につながる

したがって、社内においてハラスメントの問題が判明した時点で、第3項に記載したような手順で、早急に手続きを行うことが大切なのです。

ただ、実際に手続きをすすめる場合においては、法律の要点を踏まえたうえで判断しなくてはいけない場面というのが、非常に多くあります。

その判断を誤ってしまうと、新たな紛争が生まれる要因となりますので、そのような事態を未然に防ぐためにも、まずは弁護士にご相談することをおすすめいたします。

弁護士に相談した場合のメリット

⑴ 調査の第一段階で行う相談者からのヒアリングでは、事実関係の確認のため、正確に聞き取りを行う必要があります。

しかし、実は行為者と関係の深い人物がヒアリングの担当だった、また、充分な研修が行われていなかったために、相談者への配慮が足りず聞き取りが不十分になってしまったなど、適正な聴取が行われない可能性もあるのです。

そのような状況を招かないためにも、中立的な第三者を含めたうえでのヒアリングを行うことが大切です。

多くの企業において、ヒアリングの際は社内の調査委員のみならず、顧問弁護士を交えて行うことが多いですが、それは、上記のような問題を未然に防ぐことを目的の一つとしているからなのです。

⑵ 調査終了後は、実際にその行為がハラスメントに該当するのか、就業規則や法律の要点をもとに細かく判断する必要があります。

しかし、大前提として、判断をする側が充分に法律を理解していないと、その行為の問題性を適正に判断するということは極めて困難です。また、もしここで会社が誤った判断をしてしまうと、新たな紛争を生んでしまう可能性もありますので、慎重な判断が求められます。

例えば、実際にはハラスメント行為がなかったにも関わらず、調査不足が原因で誤って従業員を解雇してしまった場合は、会社側が損害賠償請求を受ける可能性もありますから、その責任というのは非常に重大なのです。

そのような時、弁護士が第三者として入ることにより、法律の観点からハラスメント行為の要点をしっかり踏まえたうえで、どちらの主張が正しいのかを正しく判断することができますので、会社側が本来背負わなければならない負担を大幅に軽減することができるのです。

5 まとめ

ハラスメント行為の訴えが起きた際は、丁寧に手順を踏む必要があること、また、対応を誤ってしまうと、会社の評判を落とし、結果的に大きな損害を生じさせてしまう可能性を含んでいるということをご説明して参りました。

そのような事態を未然に防ぐためにも、ハラスメント行為の訴えが起きてしまった場合は、ただちに法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。

また、顧問弁護士を設置しておくなど、いざ社内で問題が起きた際、円滑に解決できる環境を事前にきちんと整備しておくことも大切です。

アポロ法律事務所では、労働者側の労働問題をはじめとして、雇用主側の労働問題のご相談も数多く承っております。労働者側、雇用主側、双方の視点がわかるからこそ、適切な対応・対策についてアドバイスさせていただきます。ぜひ一度ご相談にいらしてください。

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