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はじめに
労働問題というと、なんとなく労働者側が抱えているものと想像しがちかもしれませんが、雇用主側が抱えるトラブルというのも、数多く存在することをご存知でしょうか。
当事務所においても、労働者側の方からのご相談だけではなく、雇用主側の方からのご相談も多くいただいております。
- セクハラ・パワハラを受けたと言われた
- 残業代未払いの請求を受けたがどう対応すべきか
- 退職勧奨をしたが、「退職を強要した」と言われてしまった
- 問題社員を辞めさせたいが、どうすれば良いか分からない
- 不当解雇とならないように、労働法に基づいた手順を踏みたい・・・
一例ですが、このような労働問題に頭をかかえていらっしゃる雇用主の方というのは、実は少なくないのです。
そして、もしこの問題に対して適切に対応しきれなかった場合、
- 損害賠償金を支払うことになってしまった
- 不当解雇とみなされ、解雇期間中の給与についても支払うことになってしまった
- 問題社員を野放しにしたことで、ほかの優秀な社員が退職してしまった
などといった結果を招いてしまう可能性があるのです。
「会社の利益を守ることを考えて判断したにもかかわらず、結果的に大きな損害が発生してしまった」という事態を避けるためにも、労働問題には、法的な正当性をもって対応することが必要不可欠です。
そのためにも、まずは法の専門家である弁護士に相談をして、適正な判断を求めることをおすすめいたします。
では具体的に、労働問題を弁護士に相談した際におけるメリットとは一体どのようなものがあるのか、大きく3つにわけてご説明していきます。
3つのメリット
(1) 労働問題を未然に防げる
労働問題の発生には予期せぬものもありますので、もし突然起きてしまった場合は、その時点で急いで策を講じる必要が出てきてしまいます。
しかし、日ごろから弁護士に相談して就労環境をきちんと整備していた場合、労働問題を未然に防ぐことができます。具体的にどのようなことができるか、いくつかご紹介いたします。
過重労働を防ぐ取り組み
「労働者が安全と健康を確保しつつ就業するために必要な配慮をする義務」があり、安全配慮義務と呼ばれます。この安全配慮義務は、労働契約法第5条に定められている法律上の義務です。
過重労働は、従業員の精神疾患、過労死、過労自殺につながる危険があり、企業の労務管理においても、従業員が過重労働に陥らないように管理することが重要です。労働基準法では、時間外労働、休日労働のある会社は、36協定と呼ばれる労使協定を従業員の過半数代表との間で締結し、労働基準監督署に届け出ることが法律上の義務です。
企業は各従業員の時間外労働、休日労働が36協定に定められた時間数の範囲内にとどまっているかどうかを常に確認する体制を作る必要があります。労働基準法の残業規制の内容を正しく把握し、会社として残業規制を守ることができる体制を作ることが重要になります。
就業規則やその他会社規程や協定の整備
1 就業規則について
事業所単位で見て、10人以上の従業員(パートやアルバイトを含む)を雇用する場合には、就業規則を作成し、労基署へ届け出ることが義務付けられています。就業規則は、労働者の労働条件などを規律するもので、とても重要です。
労働事件の裁判では、必ずといってよいほど、裁判所から就業規則の証拠提出を求められますが、多くの場合、会社の主張と乖離した就業規則内容であることが少なくありません。
就業規則は、労働条件などを規律するものですから、会社の実態とは異なる内容の就業規則があると、裁判となった場合にその就業規則に書いてあるとおりの判断がなされてしまうおそれがあります。
近年、労働法制は様々な改正が行われています。例えば、65歳までの雇用継続義務、50人以上の従業員がいる事業所のストレスチェック義務、有期雇用の5年無期転換権、有期雇用と無期雇用の従業員の均衡待遇、パート法の均等・均衡待遇などです。
会社の実態に即した就業規則となっているか、また近年の法改正に対応できているか、きちんと日ごろから確認し、適切な就業規則を整備することが、労働問題の未然の防止につながります。
2 その他会社規程や協定について
就業規則以外にも、労働分野におけるコンプラアンスの観点からは、様々な規程や協定を作成が必要です。まず、残業をさせるには、36協定が必要ですし、変形労働時間制や裁量労働制、フレックスタイム制を適法に導入するには、それぞれ協定などの作成が必要です。
こうした規程や協定が作成されていないと、後日、裁判になったときに、会社側の主張を支えることができません。
職場のハラスメント対策
職場におけるセクシャルハラスメントとは、「労働者の意に反する性的な言動」ということですが、これを防止するために事業主が対策を講じることは、男女雇用機会均等法で義務付けられています(参考:厚生労働省パンフレット)。
これを怠って、セクハラ被害が生じた場合(例えば、上司が部下に対してセクハラを行った場合)には、そのセクハラをした本人だけでなく、会社としての責任を問われることにもなりかねません。
事業主が講ずべき措置に関しては、厚生労働大臣の指針が定められていますので、その指針に沿った対策を講じることが必要となります。
また、セクハラだけではなく、パワーハラスメント、マタニティーハラスメントなど、さまざまなハラスメントがあり、ハラスメント防止対策を会社として行うことが義務付けられており、従業員がハラスメント行為をした場合、会社としての責任を問われることが少なくありません。
これらは、労働問題を未然に防ぐための対策にとても大切な取り組みになります。労働問題を多数扱っている弁護士は、どのような対策をするのか適切なアドバイスをすることができます。労働問題を未然に防ぎ、よりよい労働環境の整備をしたいと考えていらっしゃるなら、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
また、より確かな安心を買うという意味でも、顧問弁護士をつけて日ごろから対策をしておくことが望ましいといえます。顧問サービスについてもぜひ検討してみてください。
なお、詳しくは「企業法務」「顧問弁護士サービス」「契約トラブル」のページをご確認ください。
(2) 法的根拠に基づいた適切な対応がとれる
ここでは、特に多くご相談をいただく「不当解雇の問題」を例に解説していきます。
従業員を解雇(又は賃下げ、配転、懲戒処分など)したいと考えている
従業員に対して、解雇などの処分を検討している場合には、その処分が法的に適切か、その処分後に起こり得る法的リスク(訴訟提起のリスク、敗訴のリスクなど)について、事前に検討が必要です。
労働者は、労働法制によって相当程度守られていますので、十分な検討なしに解雇処分しますと、後日法的に争われ会社側が不利な立場になることが少なくありません。
訴訟で争われて解雇無効となると、働いていなかった期間の賃金を支払った上で復職を認めるか、多額の金銭を支払って和解で退職してもらうか、という経営者にとっては厳しい結果ともなり得ます。
「解雇権の濫用」の法理について
労働者を解雇する場合においては、「解雇権の濫用」の法理について正しく認識をしていることが大切です。
労働契約法第16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められているように、その解雇の理由が合理的であり、なおかつ社会通念から見ても正当性を有している場合にのみ、解雇することが認められます。
なぜならば、解雇をした場合、労働者は生活の基盤となる収入を突然失うことになりますので、その生存の権利を雇用主側の自由裁量で侵害することがないように、厳しく定められているのです。
とはいえ、「部下にパワハラをしていることが発覚し、その内容を見ても解雇が相当である」、「仕事をせずに何時間もさぼっている事が分かり、なおかつ改善の様子が見られない」などといった、明らかに解雇が相当な社員がいるにも関わらず、不当解雇で訴えられることを恐れて野放しにしてしまっては、結局は会社の利益を侵害することにも繋がってしまいますので、早急に対応することが不可欠です。
そのためにも、解雇が正当であると認められる要件とはいったい何なのか、そして、実際にどのように手続きを踏めば、労働者側との紛争のリスクを最小限に抑えられるかなど、解雇権の濫用の要点を踏まえた上での対応が求められるのです。
したがって、不当解雇やその他の労働問題が発生した際においても、まずは法の専門家である弁護士に相談することで、より適切な戦略を組んで交渉をすすめることが可能となるのです。
(3) 審判・訴訟がされた場合、代理人となって手続きを行う
近年、労働者の権利意識の高まりから、労働関係の紛争(訴訟や労働審判など)が多くなってきています。解雇、賃金、残業代、ハラスメント問題、配転や降格などの人事に関するトラブルなどが多いです。
訴訟や労働審判を提起された場合には、早急にその対応をしなければなりません(労働審判にあっては、答弁書の提出まで数週間しかないことがほとんどです)。
労働審判や裁判になると、どのような主張をすると法的に有利なのか、また、その主張を裏付ける証拠があるのかなどを迅速に検討する必要があります。仮に、従業員側の主張が裁判所に認められるようなことになるならば、和解などで早期解決を図る方向に方針転換する必要もあります。
どのような経緯があったのか、どのような証拠があるか、従業員の性格や事情などをきちんと精査し、どのような方針で裁判を進めていくべきなのかを早急に検討します。そのうえで、その有利となる証拠をすべて集めたうえで、その証拠に基づいた書面を作成し、期日までに裁判所へ提出します。
また、証拠資料を取得する際、時には外部機関などに申請依頼し、証拠を収集します。
それを通常の業務に加えて雇用主や従業員らが行うというのは、極めて困難であるといえるでしょう。
しかし、弁護士に依頼することによって、法的根拠に基づいた上で必要となる証拠を判断し、また外部機関からの必要書類の取り寄せも代わって行うことができますので、その労力を雇用主が負担する必要がなくなります。
また、審判・裁判期日においては弁護士が代理人となって出頭し、手続きをすすめますので、雇用主側の精神的な負担軽減にも繋がることが期待できるのです。
以上が、弁護士に依頼をされた場合に受けられるメリットの一例です。
なお、不当解雇やその他労働問題における弁護士の対応につきましては、
こちらの記事
でもご説明しておりますので、ぜひご覧ください。
まとめ
昨今、「モンスター社員」と呼ばれる社員を題材としたドラマも放映されるなど、その問題はより身近なものになってきています。
そのような社員を放置しておくと、会社全体の士気も下がり、経営に大きな影響を及ぼす可能性もありますから、早期解決のためにも、まずは弁護士へご相談されることをおすすめいたします。
アポロ法律事務所では、労働者側の労働問題をはじめとして、雇用主側の労働問題のご相談も数多く承っております。ぜひ一度ご相談にいらしてください。