従業員が勤務中にケガをしてしまった。従業員からうつ病の労災申請をされてしまった。
このような時会社としてどういう対応を取るのがいいのでしょうか。
労災保険で速やかに対応することも大切です。もっとも、安全配慮義務を尽くしていない場合は、会社が民事の賠償責任を追及される可能性があります。賠償責任の額も多額になることも多く、会社の社会的イメージにも大きな影響が出てくることもあります。そのため、労働災害の問題については、早めに弁護士に相談することが重要です。
アポロ法律事務所では、労災事故に遭われた方のご相談をはじめとして、労働事故が発生してしまった場合どのように対応をすすめればいいのか、といった会社側からのご相談についても、数多くいただいております。
このページの目次
1 労災保険の内容
労働者が、労災事故に遭われた場合、災害補償保険(労災保険)は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡等の多くの損害がカバーできるようになっています。
① 療養補償給付
診察・薬剤・治療材料の支給、処置・手術、居宅介護、入院・看護等の治療に関わる給付がされます。
② 休業補償給付
1日につき給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%の支給がされます。ただし、最初の3日間は待機期間となり、支給対象ではありません。
③ 障害補償給付
治療が終了した時点で身体に障害が残った場合に支給されます。支給額は障害の程度によって異なります。
④ 遺族補償給付
労災によって労働者が死亡した場合に、その収入によって生計を維持していた配偶者、子等に対して給付されます。
⑤ 葬祭料給付
労災によって労働者が死亡した場合の葬儀費用として支給されます。
⑥ 傷病補償年金
療養開始後1年6ヶ月経過しても直らず、その時点で障害等級が1~3級の全部労働不能の程度に至っている場合に給付されます。
⑦ 介護補償給付
労災によって残った後遺障害によって、随時介護が必要な場合、その介護費用が支給されます。支給には一定の要件があります。
2 会社側は速やかな労災対応を
基本的には労災保険の加入は事業主の義務です(労働者がいない個人事業は除く)。「うちの会社は労災保険に入っていない」などという言い訳は通用しません。速やかに加入しないと大変なことになってしまいます。
労災が発生した場合は、会社側も積極的に労災手続に協力するべきであり、「労災隠し」等を行ってはいけません。そのようなことをすれば、被災者との紛争トラブルに発展しかねません。また、労災隠しは、50万円以下の罰金が科されます。
労働者からの内部告発や労働基準監督署の調査、あるいは労働者が受診した病院からの通報によって発覚することが少なくありません。刑事罰を受けることにより、金融機関から融資を受けることができなくなったり、仕事を受注するための入札に加われなくなったりするなど、企業の存続にかかわりかねない影響が出ることもあります。
会社が誤った対応をしてしまうと、各方面に多大な影響が出ることも少なくありませんので、慎重かつ丁寧な対応を行うことが肝要です。ただ、通常の業務に加えて、上記のような労災手続きをすすめるというのは、会社側にとっては非常に負担が大きいものなのではないでしょうか。
したがって、労働災害が起きてしまったら、まずはその時点ですぐに弁護士へご相談されることをおすすめいたします。
また、早期に弁護士へご依頼いただくことで、被災者と会社の双方にとって、一番納得のいく方法で問題解決を図ることが期待できるでしょう。
3 弁護士が行う対応
ここでは、労災事故が発生時に被災者と会社側との間で生じうる問題と、弁護士にご依頼いただいた場合、それをどのようにサポートできるのかについてご説明いたします。
被災者への対応
労災発生時において、会社側が被災者へおこなうべき対応としては、主に次の3つが挙げられます。
①労働者の健康被害の把握及び拡大防止策の提案
被災者への対応を行う際、まず第一に、「会社側としての初動を絶対に間違わない」ということが大切です。
例えば、被災者に健康被害が生じた時点で、会社側としてはその状況にあった適切な対応を行う必要があります。
しかし、もしそれを放置したり、誤った方法をとってしまったりすると、事態をより悪化させてしまう要因にもなりますので、正しい対応策とは何かを見極めなければいけません。
また、健康被害を原因として訴訟へ発展してしまった場合などにおいては、会社の初動対応の不備についても争われる可能性がありますから、初動から非常に難しい判断を迫られるのです。
会社としてまずはどのような対応をすべきかについて悩んだ時は、まずは弁護士から適切なアドバイスをもらい、それをもとに対応をすることが望ましいでしょう。
② 労災申請、労災補償外の損害に対する交渉
明らかに労災が原因であることが認められる場合、通常、会社側が労働基準監督署へ労災申請をし、被災者への補償対応を進めていくことになります。
しかし、いざ労災が認定されとしても、その補償というのは、事故で生じたすべての損害をまかなうものではありませんので、補填されない逸失利益や慰謝料の部分については、被災者から会社側に対して損害賠償請求がなされる可能性が高いです。
その場合、その労災の原因は100%業務内容にあるのか、また会社側と被災者双方にどの程度の落ち度があるのかなどを話し合い、交渉をすすめていかなればなりません。
交渉がまとまらなかった場合は裁判になってしまい、紛争の長期化により多くの労力や費用が掛かることになりかねません。話し合いの段階で、双方がどの点で折り合いをつけるべきなのかを、正しく見極める必要があるのです。
またこの時、もし裁判になった場合は会社側にどのような不利益が生じるのか、また証拠となる資料はどのようなものがあるのかを確認し、その上で交渉をすすめなければいけません。
その見極めというのは、時に法律の知識を必要とする非常に難しいものですから、まずは交渉に入る段階で弁護士をたてたうえで、手続きを行うことをおすすめいたします。
③ 損害賠償請求訴訟が提起された場合の対応
裁判が起こされてしまった場合、被災者側としては、労災が下りていることを生かし、会社側に安全配慮義務違反がなかったかという点を争点にしてくることが多いです。
これに対して、会社側としては義務違反がなかった旨の反論、また労災が下りているとしても、その労災認定は法律の観点からみてどのくらいの信憑性があるものなのかなど、具体的な主張を掲げて争わなくてはなりません。
この時、弁護士であれば、事案の内容と過去の判例とを照らし合わせて、妥当な賠償額を緻密に計算したり、また労災認定の評価についても、法的観点から細かく確認したうえで反論することができます。
もし最終的に訴訟へと発展したとしても、弁護士は会社の利益を守る非常に力強い味方となるのです。
労働基準監督署への対応
労働基準監督署へ労災申請後は、事故の状況調査などの手続きが始まりますので、会社側としても全面的に協力して、事故原因の解明や再発防止策を講じていく必要があります。
この調査というのは、労災認定の際の判断材料を得ることを目的としていますから、被災者側の主張だけではなく、会社側の意見も正しく伝えることも非常に重要です。
しかし、会社側として正しい事実関係を伝えるためには、それを証明する資料や意見書等の提出をする必要がありますが、それらの資料が労災認定における要点をきちんと踏まえたものでなくては意味がありません。
したがって、まずは弁護士に相談をして、労災認定が判断されるポイントはどこなのか、また、正しい事実関係を証明するために会社側が提出すべき書類とは何なのかなどを、きちんと確認しておくことが望ましいのです。
また、調査の際における会社側の発言等も、後々被災者との紛争が起きた際に大きな影響を及ぼすこともありますから、当事者だけではなく、弁護士が同席するなどして手続きを行うことをおすすめいたします。
4 まとめ
労働災害が発生すると、会社側としても様々な対応に追われることになります。
特に重大なものになってしまうと、刑事責任等も問われる可能性もありますので、まずは労災が発生した時点で、すぐに弁護士へ相談することが望ましいです。
その後の休業補償や勤怠管理等、会社側が判断するには難しいケース多くもありますので、何か問題が起きた際、すぐに労働問題の相談ができる顧問弁護士の設置も検討されてみることをおすすめいたします。
アポロ法律事務所では、労働者側の労働問題をはじめとして、雇用主側の労働問題のご相談も数多く承っております。ぜひ一度ご相談にいらしてください。