立ち退き・明渡し

家賃の滞納が、3ケ月、4か月、5か月と、溜まりますと、家賃の督促を行っても支払われる見込みがなくなっていくケースがほとんどです。

家賃を払ってくれない場合、家賃滞納者から家賃全額を回収することを考えがちですが、実は、家賃滞納者に早期に退去してもらい、新しい賃借人を探す方が、家賃が支払われていない期間を最小限に抑えることにつながるのです。

それでは、どのようにして家賃滞納者にアパートやマンションなどの借家から立ち退いてもらうべきでしょうか。賃貸借契約を解除した上で、不動産を明け渡すよう賃借人に請求することになりますが、賃借人は借地借家法により保護されるケースが多く、オーナー側が賃借人に対して一方的に賃貸借契約を解除するためには、解除をするための「相当な理由」が認められる必要があります。

「相当な理由」が認められるには、いろいろハードルがあります。

ここでは、立ち退き・明渡しを求める手続について、最も多い事例である家賃滞納の事例についてご説明します。

立ち退き・明け渡しを求める手続

賃料の滞納等を理由として、賃貸人に立ち退き・明け渡しを求める場合、賃貸人である不動産オーナーが取るべき手続きについては、おおむね次のような流れになります。

① 滞納賃料等の支払いを催告する

賃料等の滞納を理由として賃貸借契約の解除を求める場合、原則として、まずは、滞納された賃料等の支払いを催告する必要があります。

催告は、一定の期限を定めて家賃の督促を行い、その支払いが実行されなければ賃貸借契約を解除するという内容にします。催告は、配達証明付きで「内容証明郵便」を使うことをお勧めします。そうすると、催告の内容とそれがいつ届いたのかきちんと証拠として残すことができます。

これは、賃貸契約の解除には、一定の期限を定めて家賃の督促を行い、その支払いが実行されなければ賃貸契約を解除するという内容の通知をしなければならないというのが、正式な「法律のルール」で決められています。

滞納賃料等の支払い催告が不要な場合もあります

例えば、賃貸人の承諾なく賃借人が借りた不動産を別の人に貸したこと等の他の理由で賃貸借契約を解除する場合には、契約解除のために滞納賃料等の支払催告をする必要はないとされています。

また、一度口頭で滞納賃料等の支払いを請求したら賃借人が夜逃げしてしまった場合など、賃貸人と賃借人との間の信頼関係がすでに破壊されてしまっているといえる場合も契約解除のために滞納賃料等の支払催告をせずに解除ができるとされています。

② 賃貸借契約解除の通知

滞納賃料等の支払いを催告した後、それでも賃料等の支払いがない場合、賃貸借契約を解除することができるようになります。

なお、賃料も滞納が3か月以上あるなど、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたという「相当な理由」あることも必要となります。詳しくは、下記の「相当な理由」が認める事例紹介を参考にしてください。

賃借人に対して、支払いの催告に続いて、賃料等の滞納を理由として契約を解除することを通知する内容証明郵便(配達証明付き)で送りましょう。この書面が賃借人に到達した時点で、賃貸借契約が解除されます。

ポイント:①支払いの催告と②解除の通知の合わせ技

解除の通知に先行させた賃料支払催告の内容証明に、「●●年●月●日【支払期限】までに支払いがない場合には、改めて通知することなく本書をもって賃貸借契約を解除します」などといった支払期限までに請求した賃料の支払いがないことを条件に、支払期限が過ぎた時点で賃貸借契約を解除する旨を記載することができます。

①と②を同時に通知できるようにすれば手続がその分簡便ですみます。条件付の契約解除の通知を記載することをお勧めします。

③ 立退き・明渡し請求(訴訟提起、強制執行等)

①と②により賃貸借契約が解除された場合、賃貸人は、賃借人に対し、不動産から立ち退いて明け渡すように請求することができるようになります。

もっとも、賃貸借契約の解除後も、賃借人が不動産から立ち退かない場合もあります。その場合、訴訟を提起して不動産を明け渡すよう請求することになります。

立ち退き・明け渡しを認める判決をもらった上で、強制執行手続により貸していた土地を更地にしたり、建物を空き家の状態に戻すようにします。

立ち退き・明け渡しを求める上での賃貸人の注意点

賃貸人は、訴訟の提起等をすることなく、賃借人の留守中に賃借人の承諾なく貸した建物や部屋の鍵を勝手に交換してしまったり、賃借人の留守中に賃借人の承諾なく不動産の中にある家財道具等を処分したりしてしまうと、法律に認められた手続き以外で、自分の権利を勝手に実現させるという自力救済として不法行為になってしまいます。

そうすると、賃貸人は、賃借人から、損害賠償請求され、慰謝料などを支払わなければならなくなるおそれがあります。

たとえ、滞納された賃料の額が膨大であったり、賃借人の行為が極めて悪質なものであったり、住居として部屋を借りた賃借人が長期間部屋を不在にしているような事情があったとしても、「自力救済」は認められません。権利を行使するためには法律に従った手続を踏まなければならないのです。自力救済は、絶対にしないよう注意してください。

賃貸借契約を解除できる相当の理由

賃料の滞納があるからと言って、賃貸借契約が解除できるかというとそういうわけではありません。賃貸借契約の解除が認められるためには、解除をするのに「相当の理由があること」が必要となり、1か月分の賃料の支払いが数日遅れた程度では、この相当な理由は認められません。

では、どのような事情があれば、相当な理由があると言えるのでしょうか。

賃貸借契約における賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといえる事情がある場合には、相当の理由があるとして賃貸借契約の解除を請求できるとされています。

① 賃料の滞納

賃料の滞納を理由に賃貸借契約を解除する場合は、例えば、滞納された賃料が3か月分以上であり、さらに今後賃借人がこれを支払ってくれる見込みがないといった事情があるとして、すでに信頼関係の破壊があると説明する必要があります。

滞納された賃料が1、2か月分でしかなくても、オーナー側が賃借人に対して賃料の支払いを求めたところ、賃借人が逆上して脅迫行為や暴行行為といった犯罪行為をして支払いを拒絶したというような事情があれば、信頼関係の破壊が認められる場合もあります。

このように具体的な事情を総合的に考慮して、信頼関係の破壊があるかどうかが判断されることになります。

② 無断転貸借

賃借人がオーナー側の承諾なく、借りた部屋を他人に貸した場合。

③ 用法(遵守義務)違反

たとえば、賃借人が居住目的で部屋を借りたが、賃貸人に知らせずに、例えば借りた部屋をもっぱら仕事場として使うようになり、この部屋で寝泊まりすることはなくなった場合など、賃貸人に無断で、違う使い方をするようになってしまった場合です。

④ 建物無断改築

賃貸借契約で、「賃借人は、借りた建物のリフォームやリノベーション等の工事を、オーナー側の承諾なしではしない」と定めていたにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾なく、リフォーム工事などを行うなどした場合です。

②~④のケースにおけるそれぞれのいずれも法令または賃貸借契約の内容に違反する行為なので、このような事情が認められるだけで賃貸人と賃借人との間の信頼関係は破壊されたと認められるケースが多くあります。

⑤ やむを得ない事情があること

やむを得ない事情があるといえる場合、解除について、相当の理由があると認められて賃貸借契約の解除を請求することができることがあります。

例えば、借りた建物が老朽化や地震により倒壊することが相当程度確実であるような場合は、賃貸借契約を解除することができます。しかし、建物が倒壊することが相当程度確実であるという事情を証明することはとても難しく、これが認められるケースは非常に少ないと思っていただく方がよいでしょう。

まとめ

賃貸借契約の一方的解除は、どのような場合にそれが認められるのか、判断が難しく、どのタイミングで、どのような手続をしていくべきか慎重に考える必要があります。

アポロ法律事務所では、家賃滞納トラブルをはじめ、立ち退き・明け渡しについて多くのご相談・ご依頼を受けておりますので、お気軽にお問合せください。

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