遺言書の有無で変わる相続手続きの流れ

遺言書の有無によって、相続手続きの流れは大きく異なります。

「被相続人の死後、相続手続きはどうすれば良いの?」という、残された相続人の不安を解消するためにも、遺言書の作成は非常に重要です。

そして、相続人が遺言書の存在をきちんと把握していれば、相続手続きは比較的スムーズに進められることでしょう。

しかし、被相続人が遺言書を作成していなかったり、遺言書の存在を誰にも言っていなかった、などという場合は、スムーズに相続手続きが出来ず、滞ってしまうケースが多く見受けられます。

ここでは、遺言書の有無によって相続手続きがどのように異なるのか、詳しくご説明していきます。

1 遺言書があるケース

遺言書がある場合は、死後、残された相続人はその遺言書を基に遺産相続手続きを進められるため、ない場合と比べて、様々なメリットがあります。

遺言書作成のメリットについては、こちらからご確認いただけますので、ぜひご参考になさってください。

また、遺言書の種類によって、以下のとおり開封の手続きが異なりますので、手続きの際は、事前に確認をしておくと良いでしょう。

  • 保管されている遺言書が「自筆証書遺言」または「秘密証書遺言」であった場合は、家庭裁判所にて検認手続きをする必要(※1)があります。

  • 「公正証書遺言」の場合は、公証役場に保管されていますので、お近くの公証役場にある遺言書検索システムを利用して、どの公証役場に保管されているのかを調べると良いでしょう(検索システムは全国の公証役場に設置されており、申出は無料)。

なお、この遺言書検索システムは、あくまでも遺言者の死後に利用することができるものであり、生前は遺言者本人以外利用することができませんので、ご注意ください。

また、死後においては、相続人、遺言執行者、受遺者等の利害関係人のみが申出可能であるため、この点も注意が必要です。

加えて、申出の際には提出が必要な書類がありますので、念のため、事前に公証役場へ問い合わせをして、必要書類の確認をすると良いでしょう。

(※1) 令和2年7月10日より、「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。

この制度を利用すると、自筆証書遺言は管轄の法務局で保管されるため(事前に遺言者からの申請が必要)、従来、手続きとして必須であった家庭裁判所での検認が不要となり、相続人が速やかに相続手続きに取り掛かることができます。 

詳しくは、こちらの法務省HP(https://www.moj.go.jp/MINJI/01.html)をご参照ください。

2 遺言書がないケース

遺言書がない場合は、相続人特定後、遺産分割協議を行い、民法が定める法定相続人が被相続人の遺産を受領します。

通常、以下の流れで相続手続きを進めていきます。

(1) 相続人の特定

まず大前提として、誰が法定相続人となるのかを特定しなければなりません。

そこで、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本をすべて取得し、そこから相続人の調査を行う必要があります(※2) 。

この時、取得した戸籍謄本等を基に法定相続情報一覧図(※3)を作成しておくと、財産調査の際に提出する相続関係書類がこの1枚で済むため、大変便利です。

(※2) 令和元年5月24日付で戸籍法の一部を改正する法律が成立し、令和6年3月1日より、最寄りの市区町村役場窓口にて、本籍地以外の戸籍謄本も取得できるようになりました。

広域交付制度の手続きについて、詳しくはこちらの法務省HPをご参照ください。(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html

(※3) 法定相続情報一覧図の取得方法について、詳しくはこちらの法務局HPをご参照ください。(https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html

(2) 財産の調査

生前、被相続人が残していた財産を、すべて調査する必要があります。

財産の種類として、主に現金、銀行の預貯金、株式、不動産、生命保険金、不動産の権利、有価証券等が挙げられます。

(3) 被相続人に債務がある場合は注意が必要

相続開始後、相続人は、単純承認、相続放棄、限定承認の3つを選択する事ができます。

単純承認

単純承認とは、相続人が被相続人のすべての権利及び義務を受け継ぐものです。なお、単純承認はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務等)も含まれますので、ご注意ください。

相続放棄

相続放棄とは、相続人が被相続人のすべての権利及び義務を一切受け継がないというものです。被相続人が残した財産より負債が大幅に上回る場合、この選択を検討する方が多いです。

ただし、放棄した場合は次の順位の相続人にその権利が移ることになりますので、相続放棄をする事実を事前に伝えるなど、親族間でのトラブルを事前に回避するように配慮すると良いでしょう。

限定承認

限定承認とは、被相続人の債務がどのくらいあるのか不明であり、財産が残る可能性もある場合に、相続によって得た財産の限度で、相続人が被相続人の債務を受け継ぐことができるというものです。

つまり、マイナスの財産を精算してプラスの財産が余った場合、それを受け継ぐことができるという点が、最大のメリットであると言えます。

しかしこの手続きには、相続人全員が承認しなければいけないという条件があります。したがって、相続人のうち誰かひとりが限定承認を反対した場合は、手続き自体を進めることができないため、相続人同士での話し合いが不可欠となります。

その事を念頭に置いておきましょう。

なお、相続放棄、限定承認ともに「相続開始を知ってから三ヶ月以内の手続きが必要」となりますので、その点についても注意が必要です。

(4) 遺産分割協議

相続人の特定と財産調査が終わったら、いよいよ遺産分割協議に入ります。

法定相続人全員が話し合いを行い、合意が出来次第、「遺産分割協議書」を作成します。

しかし、話し合いが中々まとまらず、合意まで至らないケースも多くありますので、その場合は、遺産分割調停を行います。

そこでもまとまらず調停不成立となった場合、審判へと移行します。

(5) 払い戻しや名義変更等の手続き

遺産分割の方法が決まったら、各金融機関での払い戻し手続きや、不動産や株式等の名義変更手続き、相続税の申告等を行います。

なお、手続きの際は、相続人を特定できる書面の提出を求められますので、「⑴ 相続人の特定」の項目にも記載した法定相続情報一覧図を取得しておくと、より円滑に進めることが出来るので、非常におすすめです。

3 まとめ

遺言書がある場合とない場合において、どのように相続手続きが異なるのか、また遺言書の重要性について、お分かりいただけましたでしょうか。

当事務所においても、「遺産分割をしたいのだが、兄弟・姉妹間で話し合いがまとまらずに困っている」というご相続人からのご相談が、数多く見受けられます。

「いざ」というときのために、あらかじめ遺言書を作っておくことをおすすめいたします。

また、アポロ法律事務所では、遺言書作成補助のほかにも、遺産分割協議のご相談も承っております。遺産相続でお困りごとがございましたら、ぜひ一度、ご相談にいらしてください。

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